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マーマーなリレーエッセイより/#23 五十嵐武志さん、ひろこさん(50noen) 第3回

みなさん、こんにちは! マーマーな農家サイト ボランティアスタッフのなかむらです。


編集部の田んぼも、先日稲刈りが行われたようです!

さすが、チームワークもばっちり。

わたしも週末に50noenさんの田んぼへ稲刈りのお手伝いに行ってきました。

小雨の降る中でしたが、 みなさんもくもくと稲と向き合っていました。

そう、ただただうれしい。

実感してまいりました!

マーマーなリレーエッセイ、 つに最終回です。

それではどうぞ!

******************

うつくしい景色をつくるために

最終回の第3回は、

エムエム・ブックスが今年から田んぼをはじめた理由、

田んぼに携わるときのこころ持ちなどを、

「田んぼには宇宙の縮図が映されている」という

五十嵐武志さんと

「田んぼはあそび」という

服部福太郎(エムエム・ブックス代表)が語ります。

稲の本来の姿を見ていれば、

人間がどう関わっていけばいいかがわかるという

五十嵐夫妻のお話、

どうぞ、お楽しみください。

田んぼも会社も「あそび場」

H 今回、田植えをする前に、具体的に、どのような準備を行ったのですか?  主に作業をしたのは、福太郎さんと、武志さん、と聞いていますが。

武 まず枠みたいな、あぜをつくりました。その後、水の環境を確認して、水が出るようになったらある程度耕して、水を入れました。

み 福太郎さんは、どれくらい耕したんですか?

福太郎(以下、福) 耕運機で3回ぐらいです。

K ならしていると、土が固いところとやわらかいところとあるのがわかりますね。

武 1年目ですからね。来年になったら、ほとんど固くなると思います。

福 土に触れながら、その違いを感じるのもいいです。実際にやってみると、あ、ここ固いな、とか。

み 福太郎さんが、田んぼをやるといいはじめたのだけれど、福太郎さん自身は何が見たいですか? どういう田んぼにしたいのか、ぜひ目標を聞かせてください。

福 最初は、単純にお米をつくれればいいなと思ったのですが、武志さんとやっているうちに、これは「あそび」だなと思うようになっていました。その「あそび」の中にすべて含まれています。気づきがたくさんあるんです。

何より昨日と今日、みんなで田んぼの作業…地ならしと田植え……ができてすごくよかったし、お米が何俵とれるとかより、自分にとって、心地のいい場所であり続けるようにしたいなと思っています。うつくしい景色が見たい、つくりたい。これが僕の目的かな。

そんなあそびの場でやる「あそび」のルールを武志さんに教わっているところです。だから収量というより、ぼくの好きな田んぼをつくり続けることが重要かなと思っています。

み 福太郎さんがいいなと思う田んぼのイメージはありますか?

福 やっぱり生物の楽園です! メダカとか、カエルがたくさんいて、人も集まって……。

K 福太郎さんの目標は、田んぼを純粋にたのしむということなのかもしれないですね。

福 はい。それが実現できるものだと思っています。例えば、今、武志さんのところは7俵とれてしまっているけれど、3俵に戻すことも可能なんですよね?

武 可能ですよ。

福 それができるようでありたいと思っています。どんどんとれてしまったときに、自分の心地いいところに戻せるようにしたいんです。でも、今はじめて間もないけれど、いろいろと生物のパワーバランスがあったり、今後、みんなからもっととれるようにしようという意見が出てくるかもしれないし、とらざるを得なくなってしまうかもしれないし、全然とれないかもしれないし、もっと見た目をきれいにしろということになるかもしれない……。それぞれの状況で、最善の状態でありたいと思っています。

武 それも可能ですよ。

福 すごい! そういうことができるほど確立された方法だし、確実に収量をあげられるのが、とてもすぐれていると思います。今回、武志さんに教えていただき、実践できて本当によかったと思っています!

み 武志さんと福太郎さんのベースがすごく合致していますねえ。

福 うん、すごく合致しています。武志さんも、たのしいのが一番ですよ、といってくれるし、欲がダメにしてしまうという話をよくするのですが、よくわかるんです。どんな事柄でもそうで。会社経営も同じだと思っています。

み わたしたちの会社って、実は、もうずっとお金の目標がないんです。前年比、とかも基本存在しない会社で……。むやみやたらに拡大しないようにも気を配っています。それよりも、働いている人自身の暮らしの質をどうするか、それにはもちろん経済的なこともあるけれど、同時に、もっと人間全体の気づきとか、そういったことを深めていくのにはどうしたらいいかが目標になっている。

福 でも、農家さんは、食べていくために必要な場合もありますよね。たとえば、3俵が6.5俵から8俵が必要となっていったように。会社もたとえば、規模を維持するためには8俵必要だったりする部分もあるんです。それを3俵に戻して、みんながたのしくやれる方法があるかなと考えたりしています。

み いやあ、田んぼづくり、気づきがたくさんありますね。

福 それもおもしろいなと思っています。6.5俵が絶対に必要というのも、会社でいう6.5俵とはどのくらいの数字になるのかなあ、どんな状況なのかなということを、この田んぼでただ過ごしているだけで、いろいろな気づきがあります。

み 田んぼは、実は、福太郎さんの経営戦略の場でもあるわけだ。すぐれた経営者の人は、宇宙や自然のバランスを全部わかっていると思うんですよね。利益だけを追求しすぎると失敗することとか……。みんながたのしい場所をつくったり、田んぼでいえば、うつくしい環境にすることが、最終的にはみんなのしあわせのしあわせにつながり、必要なだけの収益がちゃんとあるということを。本当はみんな、気づいていますよね。でも、やりすぎてしまって、時にブラック企業になってしまったり、お金はあるけれどしあわせではなかったり、利益に振り回されたり、といろいろな偏りができるような気がします。

稲本来の姿からみえる宇宙

武 ぼくたちも、「不耕起」や「冬に水を張る」ことなどを求められるのですが、そうではないと常々思います。ぼく自身は米を見たいと思っているし、育てるみなさんにも、米をしっかり見てもらいたいと思っているんです。何をどういうふうに加えたら、どう変わるか、とか、それは加えた人にしかわからないことで、関わっているその人しかできないことだから。扇型の穂が見たいなら、一本植え、収量を多めにとりたいなら3本植えとか、本当に、手を加えるだけなんですよね。

ひ 稲の生理生態そのものというか、稲の本来の姿があるんですよね。本当は自然にそうなれるんです。

武 そう、自然に。それは「◎◎方式」とかではない世界なんです。

ひ 稲本来の姿を見たことがある人は少ないと思います。人間が手を加えた、作物としての稲や、ごはんの状態でしか見たことがないとか。でも、本来は稲も植物の仲間であり、人間と同じ生きものの仲間なんです。その、生きものとしての姿を見てほしいんですよね。一度、本来の姿を見たら、きっと、「これが自然の形」ということがわかると思います。

武 岩澤方式の5.5苗の一本植えと、慣行の苗の一本植えは、たぶん育ち方がちがってくるんです。それを「なぜ?」と思えるといいと思います。肥料が少ないのか多いのか、耕したのか耕していないのか、自分で違いがわかってきます。教科書に載っているような論理ではなく、自分で見てわかることなんですよね。とてもシンプルなんです。

A 昨年はじめて、いろいろな田んぼや稲を見て、わたしにとっては本当に新鮮だったのですが、稲があまりよくないところ、いいところというのは、素人目にもよくわかります。あの違いはなんだろうと思いました。水、日、それと、手をかけている人の気持ちかなと。

武 それと、場所もありますね。水の量や、日当たりや、田んぼが斜めになっていたり、そういうものも関係します。

み 同じ場所でも、昨年はすごくよかったけれど、今年はよくなかったというように、年によって違うこともあるんですか?

武 そんなに差はありません。ただ、ひ弱な苗を使って、化学肥料を使ってやっていたら、天候にも左右されやすくなります。岩澤方式のように、成苗を使って耕さないでやれば、そんなに差は出てきません。

ひ 手のかけかたが、稲本来の姿になるためのサポートならいいのですが、頭で考えて手をかけすぎると、過保護な感じがしてしまいます。

武 あと、土は長年いじらなければいいのに、見ているといろいろ、自家製の有機物とか堆肥とかを入れたがるんです。入れてしまうと、本当に生きもの全体のバランスが悪くなっていきます。

み ほったらかしの土のほうが調子がいいということですよね。

武 植えたあとに、稲が全部こたえてくれるんです。

み その土が、どういう土だったかがわかる……。稲は正直ですねえ。

N 武志さんは、稲から、その声みたいなものを、教えてもらえるんですか?

武 教えてもらえるというか、感じるというか。でも、実は、正直、稲は見ていないんです。それよりも生きものや周りを見ています。

み 田んぼ全体を、田んぼという宇宙を見ているんですね。

武 そう。稲は、全体の一部だから、なんとなく見ています。

み ピアノでたとえるなら、曲の全体を見ているのと一緒ですね。1音1音ではなく、曲全体を見ているということですね。

武 あとは、田植えが終わってからは田んぼの中に絶対に入らないんです。そうすると、ゲームと一緒で、レアキャラならぬレアな雑草と生きものが出てきたりするんです! 絶滅危惧種レベルに指定されている草が出てくるから、すごくテンションが上がるんです!!

全員 (笑)

T それは、種が地中に残っていたということですか?

武 そうですね、やはり地中に残っているから、環境が整ってくると出てくることができる。

み でも、ひょっとしたら田んぼの神さまも絶滅危惧種が出てくると、驚いたり、喜んだりしているのかな……。

武 草にしても、生きものにしても、レアなものはそうだと思います。あと、噂では聞いていたけれど、やっと出てきたか、というものとか。

み 何年目かに……、それは感動しそう。

武 たのしいですよ。うつくしい生態系をつくることができれば、稲が育つのは、実はもうわかりきっているから。

み 神さまですね。神さまはきっと、できることはわかっているんですよね。人間が勝手に焦るだけで。

武 でも、収穫間際になると、みんなにお米を渡さなければいけないから、あたふたあたふたしますよ。

ひ 自然の法則も知っているけれど、人間として生まれてきているから、そういう人間的な苦悩もある。

武 あと、契約では借りている土地の地主さんにお米を返さなければいけなくて、渡すと、すっごく笑顔を見せてくれるんです。それがとてもたのしみなんです。

ひ 教室で生徒さんと分配するから、全然ないとやっぱりさみしいし、渡したいという気持ちはもちろんありますね。

その土地土地のお米の味ができる

H お米の味はどうですか? 味に対してのアプローチというか、お米の味をどういう評価として考えているのか。

武 味は土によりますね。あとは好みです。たとえば、同じコシヒカリをつくっても、ぼくたちの田んぼのほうが、ねばねばした甘いお米になって、エムエム・ブックスのほうは、もう少しさっぱりすると思います。

H まだできていないのに、わかるんですね!

全員 へえ〜!

み コントロールしないということですよね。ここでねばねばしたお米を食べようとしないということなのかも。さっぱりしたお米を、受け取っていただく、と。

H 味について、目標はあるんですか?

武 味を求めるのであれば、粒の大きさをそろえます。そうすると食べたときに、その土地の本来の味が食べられますから。粒の大きさがばらばらだと、炊いていてわかると思うのですが、水を含みすぎたり、硬くなったりします。同じ大きさで整えることによって、食味がよくなります。

H 根本的な考え方としては、目標がこういう味ということではなくて、できたものが、その田んぼの稲の味で、それをたのしみましょうということですね。

武 そうですね。

H もう1つ、質問です。武志さんのところの、田んぼの周囲の環境は、田んぼとのバランスでどこまで考えてやっているんですか? まわりの環境ありきの田んぼだと思うのですが……。

武 それは本当に時と場合によるんですよね。たとえば、お米にとって一番厄介なのが、穂が出たときにカメムシ(いわゆる害虫)がやってきて、カメムシがつくと味がなくなるんです。その場合は、雑草を刈る時期や、雑草の高さをまばらにして、穂を雑草で防ぐようにして、害虫が田んぼに入らないようにしたりして、対処します。

ひ 注意が必要なのは、本当に、まるでほったらかしにしてもいいか、ということですよね。そういうことでもないんです。

武 やっぱり、草はぼうぼうにしないように、周りの草を刈ったり。でも、虫の種類によっては刈らなかったり。

H それは経験を積めばわかりますか?

ひ 1、2年観察をしていくと、わかってくると思います。虫や生きものは、秩序や一定の法則のようなものがあって、毎年同じ動きをします。だけど、一部分だけ何かがおかしくなって崩れてしまうと、全体が崩れたりします。毎年見ていると、だんだんわかってくるかもしれないですね。

あと、いろいろな田んぼに行くのもたのしいですよ。稲の花もぜひ、見てほしい! すごく短い期間で花が咲くんです!

武 7月10日くらいの朝に咲きますよ。

H 稲の花の受粉はミツバチがやるんですか?

武 風で揺れて、自分で受粉します。それを意図的にやって、交配させてコシヒカリができたんです。

ひ 田んぼをはじめるにあたって、肥料を使わないとか、こういうマニュアル通りにしないといけないと思いすぎると苦しいので、その時の自分に見合ったやり方で、最初から完璧を求めないというのも大切だと思います。肥料を入れる、田んぼを耕す、そういう場合もあると思います。臨機応変にやれるといいですね。



















50noen | ごじゅうのえん

五十嵐武志・ひろこ

千葉県南房総市で、「自然の美しい秩序を見ることができる田んぼづくり」、「イネ本来の生理生態を活かしたお米づくり」をしている。土を耕したり、イネの生長に必要な肥料分を担っているのは田んぼに棲む生きものたち。「生きものを観察してフィールドを用意することがわたしたちの役割」と考え、「冬期湛水不耕起移植栽培」の第一人者、岩澤信夫先生から学んだ栽培法をベースに、五十嵐武志が10年以上「耕さない田んぼ」でお米づくりと向き合って培ってきた生き物・雑草・イネ・田んぼの観方とお米のつくり方をお伝えしている Web



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